映画タクシードライバーを解説 – You talkin’ to me?

29回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品である「タクシードライバー」はアメリカンニューシネマ後期の代表作として名作映画ランキングの常連作品となっています。主人公トラビスが狂気とともに表現する孤独感は、この映画を観る者の心を今も揺さぶり続けます。

「夢と希望」から「個人の無力感」へ

1940年代のハリウッドは観客たちに夢を与える"豪華絢爛なハッピーエンド"作品が主流でしたが、1950年に入るとテレビによる映画館の観客動員数の低下や、スタジオによる製作・配給・上映の独占を禁止する判決などの影響で徐々に衰退していき、映画制作に多額のコストをかけられなくなっていました。

また、1960年代はベトナム戦争への軍事介入をきっかけとした反体制運動が全米中に広がっていました。その暗いムードを反映するかのように、個人の無力感を主題とした低予算な作品が作られていき、その作品は"New Hollywood"、すなわちアメリカンニューシネマと呼ばれていきます。

脚本家自身の体験がベースに

「タクシードライバー」のストーリーは脚本家ポール・シュレイダーの自伝的な面があります。

ロサンゼルスに住んでいたシュレイダーは、会社を解雇され、友達もいなくガールフレンドから振られるという時期があったそうです。

文字通り”何週間も誰とも口を聞かず”、ポルノシアターに通う日々。次第に神経が衰弱していきました。チェーンのチキン・レストランの配達人として車の中で一日中過ごしていた彼は、タクシードライバーになった方がましだと考え、ニューヨークに行ったそうです。

そんな彼の孤独感が色濃く反映された脚本はマーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロの心を掴みました。

強烈な孤独感を演じきったデ・ニーロ

主人公トラヴィスを演じたロバート・デ・ニーロは実際に1ヶ月間、1日に15時間タクシーの運転手として働いたそうです。

また、トラヴィスが鏡に映る自分に向かって「You talkin' to me?」と語りかける有名なシーンがありますが、台詞はデ・ニーロのアドリブで、脚本にはただ「鏡を覗き込む」とだけ書かれていたそうです。これは「禁じられた情事の森」でマーロン・ブランドが鏡の前で呟くシーンにインスピレーションを受けたものだと、監督のマーティン・スコセッシが語っているとのこと。

徹底した役作りとアドリブを交えた狂気的な演技で、デ・ニーロはベトナム戦争から帰還した兵士の気持ちを代弁しました

タクシードライバーの予告編。
デ・ニーロの徹底した役作りは“デ・ニーロアプローチ”として知られている。

都会の孤独を奏でるサックスのメロディ

アルフレッド・ヒッチコック監督作品など、多くの映画へ楽曲を提供したバーナード・ハーマンのテーマ曲も本作品の魅力の一つです。

真夜中のニューヨークを徘徊するタクシードライバーの視点と、哀愁漂うサックスの音色が一つのシーンとなり、都会の孤独や寂しさを表現しています。

また、ハーマンにとって本作品は遺作となりました。「タクシードライバー」の最後のレコーディング・セッションが終了して12時間後、息を引き取りました。

タクシードライバーのテーマ。
ヒッチコック作品の「めまい」「サイコ」など

数々の名曲を残したバーナード・ハーマン。
スコセッシ監督との出会いは「ケープ・フィアー」だった。

“Editors Voice”

兎にも角にもデ・ニーロがすごい、という感想の「タクシードライバー」ですが、デ・ニーロはこの作品の撮影中に「ゴッドファーザー PART II」でアカデミー助演男優賞を受賞します。当時のプロデューサーたちは当初より多額の契約金を請求されるのでは、と危惧したようですが、デ・ニーロはオリジナルの契約通り出演料を受け取り撮影を進めたということです。


ちなみに、イかれた映画マニアなら一度は真似してみたいと思うあのモヒカンは、特殊メイクの巨匠ディック・スミスという方が作成した"カツラ"だそうで、なんだか拍子抜けというか、むしろこの点においてはデ・ニーロに「騙された」とすら心の狭い私は思ってしまいましたが、実際は他の映画撮影が同時進行しており、どうしてもモヒカンにできなかったそうです。

役作りの為にどんなことも厭わないデ・ニーロですから、実際に頭を剃れなかったのは、傑作と評価の高い本作品で唯一の心残りだったのではないでしょうか。 - Muneaki Suzuki

タクシードライバーをもっと知る一冊

映画史に燦然と輝く70年代における「アメリカンニューシネマ」の隆盛。それは、映画によって人間性の暗闇にスポットを当て、タブーに斬り込み、批評性を獲得しようという挑戦だった。


ロバート・デ・ニーロ出演の名作

ディア・ハンター – One shot is what it’s all about. | Timeless
The deer hunter


タクシードライバー(Taxi Driver)
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ポール・シュレイダー
製作 マイケル・フィリップス / ジュリア・フィリップス
出演者
ロバート・デ・ニーロ
シビル・シェパード
ハーヴェイ・カイテル
ジョディ・フォスター
アルバート・ブルックス
音楽 バーナード・ハーマン

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